気象予報士 数式導出裏話~統計力学編part1~

はじめに

こんにちは、hiropeng22です。私は、第56回から気象予報士試験を受験していて、現在(2022 02 28)2回の受験を終えています。気象予報士試験は、合格率5%程度ととても低く、一般知識・専門知識・実技試験、の3部構成となっています。どれも一筋縄では攻略することが出来ません。

今回は、一般知識の中から参考書では教えてくれない数式の導出部分を、大学工学部卒業生である私から紹介したいと思います。具体的に言うと、プランクの放射法則、ウィーンの変位則、ステファン・ボルツマンの法則についてです。気象予報士を受験されたことがある方、また気象の勉強をされたことがある方は、「ああ~、あれね」と思われるような基礎的な公式だと思います。

どれも統計力学の基礎知識が必要であり、気象の参考書では暗記する公式として扱われていますが、勿論ですが導出する為の過程が存在します。このブログの導出過程を理解するために必要なのは、数学Ⅲ程度までの知識があれば十分です。

それでは、統計力学の基礎的な部分を搔い摘みながら、各公式の導出過程を見ていきましょう。

公式紹介

  \begin{align} \varepsilon_{\lambda} &= \dfrac{8\pi hc}{\lambda^5} \dfrac{1}{e^{{hc / \lambda kT}}-1}\\ \lambda_{max} &= \dfrac{2897}{T}\\ E &= \sigma T^4 \end{align} 

(2)や(3)は見たことがあるぞ!と思われた方が多いと思います、(2)はウィーンの変位則、(3)はステファン・ボルツマンの法則です。それでは、(1)は何なのかと言いますと、プランクの放射法則の公式です。

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プランクの放射法則

この図をみればピンとくる方も多いのではないでしょうか?これを、波長\lambdaとエネルギー密度\varepsilon_{\lambda}でプロットすると図のようになります。まずは、この式を導出しましょう。そのためには、統計力学の基礎の知識が必要です。

カノニカルアンサンブルの式

振動子\nuの1つの振動子が持つ平均のエネルギー

まず空洞内におびただしい数の一次元調和振動子が存在して、電磁波を放射吸収しながらエネルギー交換し平衡状態になっていると考えると、空洞内には黒体放射が充満していることになります。各振動子の固有エネルギーをE_{n} = nh \nuとすると、その平均\langle E_{n} \rangleは、カノニカルアンサンブルの理論の式を用いて、 \beta = \dfrac{1}{kT}、\sum\limits_{n=1}^\infty e^{- \alpha n} = \dfrac{1}{1-e^{- \alpha}}、\sum\limits_{n=1}^\infty n e^{- \alpha n} = \dfrac{1}{(e^{\alpha} -1)(1-e^{- \alpha)}}を使うと、

  \begin{align} \langle E_{n}\rangle &= \langle nh \nu\rangle \notag \\ 
&= \dfrac{\sum\limits_{n=1}^\infty nh \nu e^{- \beta nh \nu}}{\sum\limits_{n=1}^\infty e^{- \beta nh \nu}} \notag \\
&=  \dfrac{h\nu \sum\limits_{n=1}^\infty n e^{- \beta h \nu n}}{\sum\limits_{n=1}^\infty e^{- \beta h \nu n}} \notag \\ 
&=\dfrac{h \nu}{e^{h \nu/kT}-1} \end{align}

これは、振動数 \nuの一つの振動子がもつ平均のエネルギーなので、これに  \lbrack  \nu, \nu +d\nu \rbrackの微小区間に存在する単位体積当たりの振動子の個数密度f(\nu)をかければ、エネルギー密度 \varepsilon_{\nu}が求まります。

単位体積当たりの振動子の個数密度f(\nu)

ここで、固体中の低振動数の波の変位u、この波動が音速\muでx,y,z方向に伝播する波動方程式を考えた時、波動方程式

  \begin{align*} \frac{\partial^2 u}{\partial t^2} = \mu^2(\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}+ \frac{\partial^2 u}{\partial y^2}+ \frac{\partial^2 u}{\partial z^2}) \end{align*}

の解は u = Asin\dfrac{n_1 \pi}{L}x sin\dfrac{n_2 \pi}{L}y sin\dfrac{n_3 \pi}{L}z cos\dfrac{\mu \pi}{L} \sqrt{{n_1}^2 + {n_2}^2 + {n_3}^2}tとなり、 \sqrt{{n_1}^2 + {n_2}^2 + {n_3}^2} =nとすると、\omega = 2\pi \nuより、

  \begin{align} \nu &= \dfrac{\omega}{2\pi} = \dfrac{\mu}{2L} n \\ d\nu &= \dfrac{\nu}{2L} dn \end{align}
が分かります。
ここで、(n_1,n_2,n_3)の三次元の座標空間を考えた時、nは全て正の整数より、n_1>0,n_2>0,n_3>0の領域内に単位体積1^3あたり1個の固有振動の組が存在するはずです。だから、  \lbrack  n, n +dn \rbrackの範囲に含まれる固有振動の組の個数は、
  \begin{align} \dfrac{1}{8} \dfrac{4\pi n^2 dn}{1^3} = \dfrac{\pi}{2}n^2 dn \end{align}
となります。
(5)(6)(7)より、
 \dfrac{\pi}{2} n^2 dn = \dfrac{\pi}{2} \dfrac{4L^2}{\mu^2}\nu^2 \dfrac{2L}{\mu} d\nu =\dfrac{4\pi}{\mu^3}L^3 \nu^2 d\nu = 4\pi V \dfrac{1}{\mu^3}\nu^2 d\nuとなります。すなわち、
 \begin{align} f(\nu) = 4\pi V \dfrac{1}{\mu^3}\nu^2\end{align}
が導けました。

プランクの放射法則

先ほどの振動子の個数密度(8)を電磁波を対象とした式に書き換えると、単位体積当たりのエネルギーを求めたいのでVを消去して、弾性波速度\nuを光速cに変更します。電磁波は横波で、電場と磁場の互いに直交する2方向の波動なので、\dfrac{1}{\nu^3}は、 \dfrac{2}{c^3}と書き換える必要があります。よって、

 \begin{align} f(\nu) = 4\pi V \dfrac{2}{c^3}\nu^2 = \dfrac{8\pi}{c^3}\nu^2 \end{align}
と書き換えられます。
(4)(9)を掛け合わせたものが振動数表示のプランクの放射法則の公式であり、
 \begin{align} \varepsilon_{\nu} =  \dfrac{8 \pi h \nu^3}{c^3}\dfrac{1}{e^{h \nu / kT}-1} \end{align}
と表せます。これを振動数表示から波長表示に変更したものが、
  \begin{align} \varepsilon_{\lambda} = \dfrac{8\pi hc}{\lambda^5} \dfrac{1}{e^{{hc / \lambda kT}}-1} \end{align} 
となります。これで、長かったですが波長表示のプランクの放射法則の公式を導けました。

おわりに

如何だったでしょうか?数学物理に長けている方はこの数式を追うのは朝飯前でしょうが、理系の方でも数式に慣れていない方はなかなか追うのが難しかっただろうと推察します。今回、プランクの放射法則を導出しましたので、次回はいよいよステファン・ボルツマンの法則とウィーンの変位則を導出したいと思います。恐らく、次回の方が導出は簡単に思われるのではないかと思います。よろしくお願いいたします。